前山 光則
5月15日、福岡市キャナルシティーで「昭和のこども」写真展を観た。誘ってくれたのは、八代市立博物館の学芸員・石原浩氏である。「昭和のこども」は一昨年に写真集が造られており、19人の写真家の作品から170点をセレクトし、『昭和の貌』(弦書房)の麦島勝氏の写真も4点収録されている。そしてその本の刊行と同時に東京都の八王子市夢美術館で写真展が二ヶ月近く催された、という経緯がある。石原氏が、その写真展を福岡でも5月19日まで観られます、と教えてくれたのである。運良くわたしも福岡に遊びに行っていたから、会場で彼と待ち合わせた。
麦島氏以外の写真家の名を敢えて全部挙げてみるが、木村伊兵衞・入江泰吉・熊谷元一・土門拳・植田正治・原甲子雄・飛騨野数右衛門・緑川洋一・濱谷浩・山端庸介・林忠彦・井上孝治・岩宮武二・芳賀日出男・長野重一・田沼武能・熊切圭介・齋藤康一――日本の写真界をリードしてきた人たちである。この写真展に登場する「こども」たちは、最も古いので昭和11年、新しいので昭和51年。中心となるのは戦後すぐの頃から昭和30年代の高度経済成長期にかけての頃の写真であるが、質素な服で、痩せて、靴は履いていたり履いていなかったりでまちまちだ。だが、彼等の表情がみな精彩に満ちているのは、どうだ。笑っているのもいれば泣き顔も見えるが、笑い顔も泣き顔も実に活き活きしている。ああ、そういえばあの頃そうだったよな、と、つくづく同感。しかも写真に映る彼ら昭和の「こども」たちは、カメラを意識しているふうでない。カメラと無関係にいつもの遊びや手伝いやらをやっているので、察するに19人の写真家たちは写す対象とごく自然な関係になれるまで待ってからカメラを構え、シャッターを押したのであったろう。
麦島氏の作品は、天草の子が海岸で蛸干しの作業を手伝っている写真、少年2人が自転車に薪をいっぱい積んで運ぶ写真、球磨川べりを7人のこどもが楮(こうぞ)の皮を手に持って歩いている写真、集団就職に出発する中学卒業の少年が列車から顔を出している写真、計4枚が展示されていた。どれも、こどもたちが一番その子らしい顔つきを見せた決定的瞬間を捉え得ている。いやあ、石原氏もわたしも顔を見合わせ、嬉しさを抑えることができなかった麦島氏の写真は他の名だたる有名写真家たちのものと比べて勝りこそすれちっとも劣っていない。熊本県八代市に、優れた写真家・麦島勝あり。この秋には、八代市立博物館で氏の仕事の全貌を伝える写真展が企画されている。楽しみだな、と思う。
写真展を観た後は、二人で近くの櫛田神社に詣でて、商店街の中をブラブラ歩き、川端ぜんざい広場で休憩し、天神界隈へ出て書店に入ったりした。川端通商店街はどことなく昭和の香りが漂うので、心安らぐ気分だった。