市原猛志
【合田邸(1928年竣工ほか)香川県多度津町】
職場で仕事を終えると、そのまま新幹線に飛び乗る。3時間もすれば香川県に着くと言うから、交通網の発達は誠にありがたい限りである。向かった先は多度津。ご存じの方はあまり多くないかもしれないが、古くから交通の結節点として栄えた場所で、江戸期には金比羅街道、近代では松山行きと高知行きの両鉄道線の分岐点となっている地域で、現在もJR四国の工場が立地する。
合田邸はこの金比羅街道沿線である本通地区に立地する旧家で、大正末期~昭和初期の間に建て増しを繰り返していった建物群である。建物の主であった合田房太郎(1861-1937)は、当時多度津で隆盛を誇った豪商7人のうちのひとりで、内部は当時流行したスクラッチタイルやステンドグラスなどで彩られた和洋混在の棟々で構成されている。
見所が多いため、なかなか写真を絞ることが難しいが、個々では外観と内部のギャップを見て楽しんでいただきたい。基本的には近代和風建築の典型例であるが、内装にはアールデコの影響を思わせるデザインモチーフが多く遺されており、地方の港におけるデザインの伝播がどのように展開されていたかについても気に掛かるところである。
このときの見学会は2016年11月3-6日の計4日間行われたが、4000名を超える見学者が参加したという。近代建築に対する関心の高さが個々四国でも根強いことが確認出来たことも成果であった。